Published
- 15 min read
中途入社のAWSエンジニアが、稼働中サービスの運用状況をキャッチアップするために意識すること
Classiアドベントカレンダー11日目です。
今回は、AWSエンジニアが稼働中のAWSの管理アカウントを渡されて、ビクビクしながらキャッチアップを行っていったときのメモになります。
1.TL;DR
AWSアカウントのログイン前に準備できることもあるし、AWSアカウントにログインしてわかることもあるし、サーバーにログインしてわかることもある。
それぞれのレイヤーでどういったことを確認するかを意識しながらキャッチアップを進めていきましょう。
2.AWSアカウントログイン前の事前準備
サービスが稼働しているのであれば、AWSアカウントにログインせずとも、たくさんの情報をキャッチアップすることができます。
1日目から何らかの大きなアウトプットを出さないと解雇するような会社は、(おそらく)存在しない筈です。まずは落ち着きましょう^^;
2-1.ドキュメント読み込み
サービスのインフラにAWSが使われることが多くなったからといって、入社前に経験したAWS運用フローがそのまま活かせる訳ではありません。
まずは、前任者や運用中のドキュメント管理ツールの中から、今までどのような運用を行っていたかを確認します。
ドキュメントを見たときに意識する観点としては、
- フロー型:時間による鮮度の劣化があるドキュメント
- ストック型:システム仕様など、メンテナンスが求められるドキュメント
どちらの情報であるかを意識して読むことが重要です。
フロー型の情報は、障害などで一時的な対応用にメモっていることもあり、運用の中で解決済みのことがあります。
そのため、ストック型のドキュメントを中心に見ることが素早いキャッチアップになると思います。
とはいえ、ドキュメントの全てがメンテナンスされている会社というのは稀だと思いますので、各種ドキュメントを見ながら、仮説程度に自分なりのシステム構成図などを書いてみましょう。
要件定義書や各種構成図の変更履歴、課題管理表、リスクコントロール表といったドキュメント類があるのであれば、目を通しておきましょう。
2-2.運用フローを観察する
サービス側のドキュメントについては、まだ文書化されてることが多いですが、運用系ツールに関しては、ドキュメント化されていないことがあります。
今の開発スタイルであれば、何らかのチャットツール(Slack,ChatWork,HipChat)上で、
- デプロイ
- 各種の通知
- 運用Bot
の運用といったことが行われていると思います。また、チャットだけでなく、メールでの運用フローも存在しているかもしれません。
こうした運用系ツールの存在は、今後自分がリファクタするときに、「必須要件ではないが、重宝している」ということで、「リファクタ後にも、あの機能を実装して欲しい」といった声が社内から上がると思います。
そのため、このような運用フローがどこで実装されているかを見極めることが重要になってきます。
2-3.インフラ部分のコード読み
「俺はフルスタックエンジニアだ!」という強い意思がある方は、この時点で稼働中のアプリ側のコードまで読み込んでいただければよいですが、まずは入社前に期待されたであろう、インフラまわりのコード化部分を把握しておきましょう。
どのみち、いずれはメンテナンスを任されたり、質問されることが増えてきますので、自分のメンテナンスする部分を優先的に確認しておきましょう。
実サーバーの運用はAWSに任せているので、ここで意識しておくことは、
- Infrastructure Orchestration Tools:Terraform, CloudFormationなど
- Server Configuration Tools:Chef,Ansible,Itamaeなど
あたりのコードがgithubなどに保存されているからといって、メンテナンスされていない可能性もあります。
コードの設計方針などを確認するのは当然必要なのですが、コードの変更履歴が年単位で放置されていないかどうかも見ておきましょう。
特に、AWS関連のコードについては、担当する人がアプリ側よりも少ないので、構築当初のコードのままなのか、運用されているコードなのかはPRなどで確認しておいた方がよいです。
3.AWSのアカウント内を調査する
実際にAWSアカウントにログインしたり、APIで各種設定を確認していきます。Web系サービスであれば、TCP/IPモデルやC/Sモデルを意識しながら、下層レイヤー回りから調査していき、ネットワークがどうせ設定されているかを確認していきます。
おそらく、ここで多くの疑問(場合によっては、絶望)が生まれる段階です。「あれ?ドキュメントにこう記述されているけど、設定上は違うような…」という沼にハマることがあるでしょう。負けないでください、一人で抱え込まずに闇を共有できる仲間を見つけましょう。
3-1.外部システム連携の確認
VPC関連のサービスを中心に、自AWSアカウント以外の連携がないかの確認を行います。
関連しやすいAWSサービス例)
- DirectConnect
- NAT Gateway
- Peering Connection
- Customer Gateways
- Virtual Private Gateways
- VPN Connections
- NetWorkACL
- SecurityGroup
- EIP
などに、何らかのインスタンスが稼働していて、productionやhonbanなどの文言がついたものがあれば、それはドキュメント上には存在しないが、サービス上何らかの理由で稼働しているものである可能性があります。
自社のサービスがAWSアカウント内だけで完結しているのであればよいのですが、誤ってここのインスタンスなどを削除すると、場合によってはシステム復旧できないぐらいの痛手になるので、慎重に確認していきましょう。
特に、SecurityGroupは、最近でこそInboundルールにDescriptionをつけられるようになりましたが、数年運用されているシステムには、何で利用しているIPアドレスなのかがわからないことがあるので、設定確認中に不明なIPアドレスを見つけたら社内で有識者に聞いてみましょう。
3-2.システム導線の確認
インスタンス障害があるとユーザー影響がありそうな、システム導線を追っていきます。
関連しやすいAWSサービス例)
- ELB(CLB,ALB,NLB)
- CloudFront
- EC2
- ElasticCache(redis,memcached)
- RDS(Aurora,MySQL,PostgreSQL,SQLServer)
- ElasticSearch
- DynamoDB
- S3
各種のインスタンスサイズが適切かを確認するのはもちろんですが、DB関連についてはバックアップ関連の設定がちゃんと行われているかどうかも確認しておきましょう。 バックアップウィンドウの世代数やメンテナンスウィンドウの時間が営業時間内になっているとかは、結構ありがちな設定漏れケースになります。パラメータストアの設定については、本番で稼働している設定が正義なので、設計と違う場合は、社内で経緯を追ってみましょう。
3-3.運用導線の確認
直接のユーザー影響はないものの、バッチ系およびログインやログ連携など、システム運用で必要な運用導線を追っていきます。
関連しやすいAWSサービス例)
- EC2
- Lambda
- ElasticSearch(& kibana)
- IAM
- CloudTrail
- AWS Config
- CloudWatch Logs
- S3
- Glacier
24224というポート開放を見れば、そのシステムはfluentd関連のフローがあるのはほぼ確定なので、ログの発生から可視化ツールおよびバックアップのフローまで追っていきましょう。
また、バッチ系のEC2に関しては、最近のAWSだと、FargateやECS、Lambdaなどで定期バッチを行うことも可能なので、単一障害点をなくすことができないか、今後の計画のために、バッチ系が整理されているドキュメントなどを探してみましょう。
4.サーバー内の設定を確認する
最近だと、Server Configuration Toolsが大分普及していたり、コンテナ系の運用が発達してきているので、このあたりのキャッチアップ期間が少なくなるのかなと思います。
とはいえ、SSH接続を頻繁に行うサーバーや起動時間が長いサーバーだと、コードの設定と異なる部分が出てきていることがあるかもしれません。
OSの設定やミドルウェアのバージョンなど、SSH接続すると確認した方がよいところは多々ありますが、Server Configuration Toolsの設定と異なっていたり、運用中のアラート設定などで差異がでやすそうな部分を以下に記載します。
4-1.各種メトリクス確認
メモリやプロセスの状況は、通常CloudWatchだけではわからないので、MackerelやZABBIXなどの監視ツールエージェントを入れているのであれば、各サーバーのメトリクスを確認しておきましょう。
4-2.稼働プロセスの確認
pstreeなどで、稼働しているプロセスを確認します。SSH接続が禁止されているのであれば、AWSのSSMエージェントなりで確認できないかを検討してみましょう。設計上のソフトウェアスタックに存在しないプロセスが常駐している場合は、何のエージェントが動いているかを追っておきましょう。
4-3.不要なファイルが出力されていないかの確認
ログレベルがデバッグのままだったり、ログファイルのローテートがなされていない場合があり、アラートは上がっていないけど、サーバー内のリソースを侵食しているときがあります。
また、生成されるログファイルが小さすぎると、ディスクに余裕がありそうに見えても、inodeが先に枯渇するときもあります。lsof
やdf -i
などを可視化するなどして、サーバー内のディスク状況を確認しておきましょう。
4-4.同期処理と非同期処理のプロセス確認
同期処理のプロセスは意識しやすいので、監視対象に入っている可能性が高いです。
ただ、非同期系プロセス(Rubyだとsidekiq,Pythonだとcelery,PHPだとphp-resqueなど)が監視対象に入っていないこともあるので、どのサーバーで非同期処理が行われているかを把握しておきましょう。
5.まとめ
AWSや他のパブリッククラウドが全盛になった今でも、3層アーキテクチャのシステム構成やOSI7階層などのレイヤーを意識しながらキャッチアップを行うと、システムを俯瞰しながらキャッチアップを進めることができるのではないかなと思います。
とはいえ、前任者がコード化しきれなかった部分もある筈なので、そこは社内で過去経緯を知っている人に笑顔で質問をしてみましょう。技術が発達しても、人に蓄積されるノウハウはまだまだ多いので…
AWSエンジニアが転職する際などのご参考になれば。